― シナリオを読んだ第一印象はいかがでしたか。
それぞれの登場人物がある瞬間に物語の中心になるような合唱的な構造がとても気に入りました。ギャング組織のリアルな描写にも惹かれました。『裏切りの闇に眠れ』は、変ってしまった闇社会の現実を、研ぎ澄まされた眼差しで見つめている。ギャングはずっと映画と大衆を魅了してきましたからね。
― その魅惑はどこから来ていると思いますか。
ギャングと映画には通じあうものがあります。ギャングが映画にインスピレーションを与え、映画もギャングにインスピレーションを与えてきました。例えばリトル・イタリーのマフィアは、有名になるために『ソプラノズ 哀愁のマフィア』(アメリカのTVシリーズ)に一度は出てみたいと思っています。逆に、トニー・モンタナ(『スカーフェイス』)やマイケル・コルレオーネ(『ゴッドファーザー』)など、映画の中のギャングは僕たちのような若い世代にとっては成功のモデルでありシンボルにもなりました。彼らの権力、精神力、カリスマ性、成功は、自分に自信もなければ名もない若い僕らに、彼らのようになりたいという願望を与えたのです。
僕が18歳の頃、アンドレ・テシネの『夜の子供たち』の役作りのため、何人かのギャングを紹介されたことがあります。彼らと外出すると、指を鳴らすだけで何もかもが思い通りになり、力と自由を感じました。彼らといると自分が大した人間のような気がしてきて、彼らのようになりたいとさえ思いました。まるでギャング映画の人物のような気がしたものです。しかしそれは現実ではない。直ぐに、この世界が極端に暴力的で危険なものだと気づきました。その世界で生き残る能力がなければ、そこにいるべきではない。自分の場所にいるほうがいい。
― あなたが演じたフランクについてお話ください。
シェンデルフェール監督は、フランクという役をロマンティックな登場人物として僕に説明しました。彼の事は誰にも分らない。どこから来たのか、どこへ行くのかも。フランクは契約を履行し、人を殺すだけです。彼が探し求めているのは自由です。彼はコルティのように帝国を作ろうとも、手下を山ほど持ちたいとも思っていない。金のために自分ができることをしているだけです。彼はプロフェッショナルで、つつましく、殺すことに何の楽しみも見出していないし、苦しませることもしない。自分のためにしか動かない一匹狼です。彼は誰にも仕えない。何に対しても愛着を持ってはならないことも良く知っています。何かを所有し、誰かを愛すれば、それが人を弱くする。フランクは、強くあるためには孤独でなければならないと知っている。「精神」、それが長くビジネスを続けてゆくために最も重要なものだ、と。この映画の主題の中心に“裏切り”があります。警察にはタレコミ屋が付きものであるように、ギャングには裏切りが付きものです。フランクは誰のことも信じないし、その中で自分が生きている世界に幻想を抱かない。こんな世界に長く生きているためにはパラノイアでなければなりません。こんな孤独は重すぎますね。
― 役作りはどのように?
ゆっくり、時間をかけて、役が熟して沁み込んでくるのを待つ必要がありました。リサーチと出会いの成果が、役になりました。僕はフランクの仕事の上での細心さ、きめ細かさを示そうと思いました。彼はヴェルサーチを着るのを好み、美しい車、美しい女性など美しいものが好きです。惨めな生活を知っている彼は、そういう目に二度と会わないように金を使う。彼の近寄りがたく、神秘的な見かけは周囲の人間を苛立たせる。彼は誰の手下にもなりたくはない。彼はサディストではない。興味深かったのは、彼の策略、嘘つきの才能と同時に、彼が殺しにうんざりしている様子を演じて見せることでした。彼は疲れ果てているのです。
― ギャング組織と出会ってみて何か学ぶところはありましたか。
新しく得たものなど何一つありません。強者の論理は世界の始まりから存在し、世界中どこでもそれは似たようなものです。『裏切りの闇で眠れ』は我々の社会の鏡なんです。
僕はギャング映画が好きで、というのも西部劇のように主題が普遍的な神話を扱っているからですが、『スカーフェイス』が悲劇であるように、『裏切りの闇で眠れ』も、ただのギャングの物語以上のものです。この映画は、人間の本能、支配欲、権力、所有、金、暴力、彼らが生きている社会について多くの事を説明してくれています。
― フレデリック・シェンデルフェール監督の長所は?
フレデリックには並外れた集中力があります。エネルギッシュで、緊張感に満ちている。その点で、彼と彼の映画は似ています。それぞれの仕事と立場を尊重する彼の昔気質のやり方が僕は好きです。
― 撮影の際の思い出などありますか。
一言で言えば出会いの喜び。監督は尊敬できる人間でしたし、それに何より、フランクのような人物を演じることができたのが嬉しかった。ポスト・プロダクションの間にフィリップ・コーベールから電話があって、ラッシュを見たらしく、僕の演技が良かったと言ってくれました。こういうことがあると、自分に自信がもてない時に元気をもらえるものです。


